統合失調症の架空症例
23歳の男性。
高校までは成績優秀で友人も多く活発だった。
大学進学後、不安感が出現し大学に行けなくなった。当初は「何が起きているのか分からないが、何かが不安」と何度も訴えていた。
その後、徐々に「周囲から悪く噂されている感じ」が出現した。
次第に「電車の中でみんなが自分のことを話している」「家の周りで自分の悪口を言っている」と主張するようになった。
数カ月後、家族同伴で精神科を受診。
知らない人の声で「バカ」と言われる、「みんなから就職できないようにされている」と語り、診察中にはしばしば誰かと会話しているような独り言を認めた。
統合失調症と診断され、抗精神病薬の内服を開始し、幻覚妄想は消退した。
統合失調症とは(要約)
10代後半から30代ごろまでが発症しやすく、100人に1人弱ほど患者さんがいるとされています。
発症に男女差はありません。
症状としては、本人にしか聞こえない声で馬鹿にされたり(幻聴)や事実とは異なることを確信し訂正できない状態(妄想)といった「陽性症状」と、活動性や自発性が低下したり喜怒哀楽が少なくなる(感情の平板化)などの「陰性症状」が特徴的です。
本人が自身の精神変調に気づくことは難しいことも多く、幻覚や妄想に左右されて独り言を言ったり奇妙な行動をしている本人の異変に周囲の人が気づいて受診に至るケースも多いです。
抗精神病薬を中心とした薬物療法が必要です。
統合失調症の頻度
おおむね 1000人に8人 程度といわれ、地域や性差はほとんどありません。
統合失調症の症状
統合失調症の症状は陽性症状と陰性症状の二つに分けられます。
陽性症状
陽性症状は、幻覚や妄想といった、本来健康な人にはないはずのないものが現れる症状です。統合失調症を特徴づける代表的な症状といえます。
自我障害は陽性症状に含まれ、自分と他人との境界があいまいになってしまいます。
- 自分の考えていることが声になって外から聞こえてくる(考想化声)
- 周りの人から自分に考えが吹き込まれている感覚(思考吹入(すいにゅう))
- 自分の考えが他人に奪われてしまう感覚(思考奪取)
- 自分の考えが他人に伝わってしまっている感覚(考想伝播(でんぱ))
- 自分でしていることが誰かからさせられているという感覚(させられ体験)
幻覚も陽性症状の一つで、現実にないものをあるように感じます。
- 幻聴は統合失調症でよく認める症状で、「お前が馬鹿だ」、「死んだほうがいい」などと患者に対する批評や非難の声が聞こえてくることが多いです。他にも「右へ行け」「薬を飲むな」といった命令をしてきたり、患者さんの行動を観察し口を挟むように「ご飯を食べている」「手を洗っている」などと行動を描写する幻聴もあります。
- 「脳がばらばらになって、飛び散って行く」「肺が溶けている」など体に関係した幻覚は体感幻覚と呼ばれます。
- 幻触:女性に多く、「寝ているうちに体を触られる」「後ろから誰かが体に触る」など
- 幻嗅:「生臭い匂い」「死臭のような匂い」など
- 幻味:「毒のような味」、「気持ちの悪い味」など
妄想も陽性症状に含まれます。非現実的なことやあり得ないことなどを信じ込んでしまい、訂正することができません。
- 「どこかいつもと違う」「周りが妙に騒がしい」など周りの世界が何かおかしいと感じる(妄想気分)
- 「緑色の車が通ったから、警察が自分を逮捕しにくるに違いない」など、特に意味のない出来事から自分に何かを示していると確信する(妄想知覚)
- 「さっきから髪をいじっているのは自分への当てつけに違いない」など、身の回りのことを被害的にとらえ自分に関係付ける(被害関係妄想)
- 「自分は選ばれし世界の救世主だ」などと突然ひらめき確信する(妄想着想)
思考の障害により、まとまりのない会話や行動になります。
- 自生思考:イメージや考えが勝手に頭に浮かんできてそれを制御できない状態
- 連合弛緩:話のまとまり・つながりの悪さ
- 滅裂思考:単語-単語,句-句,文-文間で意味のつながりが欠けているか不自然で奇妙
- 思考途絶:思考が突然に寸断される.
- 言葉のサラダ:単語の無意味な羅列
陰性症状
陰性症状は、本来健康な人には備わっていたものがかけてしまう症状です。感情の平板化(感情鈍麻)や意欲の減退、思考の低下などが含まれます。多くは陽性症状に遅れて現れます。
- 物事に対して無関心・無頓着となり感情にも深みがなくなる(感情鈍麻)
- 何してもつまらない(快楽消失)
- 1つの物事・人に対して相反する2つの感情を同時かつ無関係に抱く(両価性)
- 現実世界に背を向けて自分自身の世界観に閉じこもる(自閉)
- 言語・非言語コミュニケーションによる交流が難しくなる(疎通性障害)
統合失調症の経過
急性期は、幻覚や妄想を中心に様々な症状が顕著になり、直ちに医療的な介入を必要とする精神状態となります。本人は病気の自覚がないことも多く、入院を要する場合も多いです。
治療介入により急性期が落ち着いた後も、その多くが再び幻覚や妄想などの精神病症状が出てきたり(再燃)、 急に状態が悪くなることが知られています。
再燃、急性増悪の主な原因としては、 抗精神病薬の服薬が不規則になったり、ストレスが増えたりすることが挙げられます。
一方で、薬物治療を継続していても、 統合失調症の自然経過として再燃、急性増悪をきたすことも珍しくはないです。
統合失調症の治療
本人に病識があれば自ら受診しますが、多くの例では精神病症状に強く影響され自らの病状についての理解に欠けるため受診を拒むことが多いです。
本来は通院治療が望ましいですが、急性期症状においては自宅療養や服薬継続が困難な場合が多く、入院治療となることが多いです。
非定型抗精神病薬による薬物療法が第一選択となります。
最大用量まで用いても無効なときは 他の抗精神病薬へ変更を行います。
精神運動興奮や躁状態を伴う場合は、抗不安薬や情動安定薬を補助薬として用いることがあります。
参考文献
今日の精神疾患治療指針 第1版 医学書院
カプラン 臨床精神医学テキスト 第3版 MEDSi
日本神経精神薬理学会 統合失調症薬物治療ガイドライン 2015