パニック障害の架空症例

35歳男性。
20歳の時、仕事中に急に息苦しくなったり、胸がドキドキすることが続き、「心臓の病気かもしれない」と思ったが受診はしなかった。

33歳の時、仕事が多忙であったときに、運転中に突然の息苦しさ、冷汗、血の気が引く感じが起こり、「呼吸がおかしい、このままでは死んでしまう」と思い、総合病院の内科を受診したが、心電図や血液検査などでは異常は認めなかった。

しかし、その後も似たような発作が時々起こったため、同院の精神科を紹介され、パニック症と診断診断され、抗うつ薬と不安薬の頓服で加療が開始された。

薬を飲んでからは、時々不安感が高まることはあるものの、頻度は以前より少なくなり、発作の強さも以前よりかなり減ったため生活での障害はほとんど認めなくなった。

パニック障害とは(要約)

パニック障害は、胸の痛み、呼吸苦、発汗、不安感、気が遠くなる感じ」などがある日突然起こるパニック発作が特徴的です。

特に、初めての発作では強い不安感や恐怖感、身体症状から救急車を呼んだりすることもあります。

そして、発作を何回か経験するうちに「またパニック発作がまた起こるんじゃないか」という不安(予期不安)から、発作が起きた時に逃げ出せない状況や場所を回避するようになることがあります(広場恐怖)

【回避の対象となりやすい場所】

  • 新幹線やバスの乗車
  • 高速道路での運転
  • 美容室や映画館

薬物療法としては抗うつ薬や抗不安薬などで治療します。

 

パニック障害の原因

広場恐怖はパニック障害の患者の約3/4 の患者さんにみられ、広場恐怖を伴うパニック障害では伴わない群に比べて、お薬の量が増え、治療する期間も長くなるという報告があります。

パニック障害の双子で、二人ともパニック障害になる確率は、一卵性の双子では 34%、二卵性の双子では8%でした。

このことから、パニック障害の発症には遺伝子が関与しているけど、遺伝子だけで決まっているわけではないと推測されます。

心的外傷後ストレス障害(PTSD)は身体的または精神的に生命の危機に直面したあとに発症しますが、パニック障害では、本人がストレスと意識しないストレスも含めて種々なストレスが本人が気づかないうちに蓄積して、ある時に爆発した状態としてパニック発作が発症します。

さらには、本人が全く ストレスに気づいていない(ストレスを自覚していない)こともあります。

パニック障害の頻度

一生のうちでパニック障害になる人の割合は、100人に1〜4人とされています。

女性は男性に比して2~3倍病気になりやすいです。

パニック障害は、最も一般的には10代後半から30代までに発症するとされ、 その平均年齢は約 25歳です。

しかしながら、パニック障害も広場恐怖症もあらゆる年齢で発症する可能性はあります。

2000年に行われた日本の調査では全体で3.4%、男性 1.8%、女性 5.4% でした。

パニック障害の経過

治療開始3か月程度でパニック発作をはじめとする強い症状が大幅に消失し、患者さんは日常生活で大きな障害を感じなくなることが期待できます。

1年目には、広場恐怖もほとんど消失し、病的状態はなく、ほとんど症状を感じなくなるまでに回復することが期待できます。

しかしながら、うつ病を合併するとやや予後が不良となることが知られています。

パニック性不安うつ病では、日常生活上で支障がある水準で障害が数年間続くこともまれではありません。

症状の重症度と頻度に男女差はありませんが、広場恐怖は女性に多いです。

症状がほとんどなくなる割合(寛解率)は男女ともに40%程度とされています。

パニック障害の治療

まず、パニック障害という病について患者さんやご家族に知ってもらうことで、不安を低滅させることが大切です。

具体的には、「心臓や呼吸器系の疾患で生じているのではなく、死に至るような病気ではないこと」「突然に起こる不安という情動がさまざまな身体症状や精神症状をひきおこしていること」などを知ってもらいます。

また、アルコールや喫煙、過度のカフェイン摂取などはパニック障害の増悪因子です。

薬物療法の最初の治療目標は、パニック発作を消失させることです。抗うつ薬の一種のSSRIやベンゾジアゼピン系の抗不安薬などで治療を開始します。

ある程度軽快したあとで、あえてパニック発作を生じやすい場所や場面に出向き、段階的に慣らしていく曝露療法も有効です。

家族や周囲の人の対処法

ご家族や周囲の人にも、「身体の病気ではないのだから大丈夫」というわけではないことを理解していただく必要があります。

「パニック発作は患者さんにはどうにもコントロール出来ない発作であること」「死ぬほどの恐怖を体験していること」を知っていただきましょう。

本人も家族も病気を正しく理解し、治療をつづけることが大切です。

参考文献
今日の精神疾患治療指針 第1版 医学書院
カプラン 臨床精神医学テキスト 第3版 MEDSi
研修医のための精神科ハンドブック 第1版 医学書院
精神科治療学 第30巻 増刊号 精神科治療における処方ガイドブック 星和書店

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