適応障害の症例

68歳の女性。
健康で精神科疾患の既往歴はない。

外科から処方されていた睡眠薬を過量服薬し、救急外来に搬送された。

3年前に乳がんが発見されホルモン療法を行っていたのが、1週間前に行った検査で乳がんの再発が発見されたとのことだった。

3年前に乳がんが発見された時も支えになってくれていた夫は、去年死去しており、相談相手もおらず思い詰め、自暴自棄となり自殺願望が生じたとのことだった。

救急外来から精神科に紹介され、支持的な精神療法と抗不安薬の頓服により徐々に本来の生活機能を取り戻した。

適応障害とは(要約)

適応障害は、明らかに確認できるストレス因子への不適応反応です。

症状は抑うつ気分や不安感、イライラ、不眠などが出現します。

ストレス因子は例えば進学や転職、離婚、昇進、死別など多岐にわたります。

ストレス因が発生してから3カ月以内に発症し、ストレス因もしくはその結果が解消されてから6カ月以内に症状は改善することが適応障害の特徴です。

一般的な会話の中で、「〇〇のせいでうつになった」と話す場合は、精神医学的には「うつ病」ではなく、「抑うつ気分を伴う適応障害」であることが多いです。

また、悪いことが起きた時にはたいていの人は動揺するもので、これは適応障害には含まれません。

苦痛の大きさ(例:気分、不安、または素行の変化)が、通常予想される以上のものであるときに適応障害が疑われます。

治療場面ではストレス要因とどう付き合っていくかを検討する必要があります。精神療法と共に、症状に対して薬物療法を行う場合もあります。

適応障害の頻度

適応障害を障害で経験する人は100人に2〜8人 と推定され非常に多い疾患です。

男女比は 2対1 で女性に多く、特に独身女性が一般的に最もリスクが高いとされています。

小児期や青年期においては男女差はみられません。

適応障害はどの年齢でも生じる可能性がありますが、青年期が最も多く、ストレス因子としては学校問題や親の離婚、失恋などで引き起こされることが多いです。

成人におけるストレス因子としては、夫婦間の問題や離婚、新たな環境への転居と経済問題が多いです。

適応障害は、内科や外科の疾患のために入院している患者に最も多くみられる精神科診断の1つでもあります。

適応障害の治療

ストレス要因への心理的反応がこの障害の本態ですから、治療は精神療法が主となりますが、抑うつや不安感、不眠などに対して薬物療法を行うことはあります。

さらに場合によっては、ストレス要因を解消させる手立てを考える上で、精神科医が力になれることもあるかも知れません。

参考文献
今日の精神疾患治療指針 第1版
カプラン 臨床精神医学テキスト 第3版

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