社交不安障害の架空症例

29歳の女性会社員。
高校生の頃から、初対面の人々の中に入るといつも神経質になり、「みんなが自分のことを『ばかなことを言っている』と嘲笑しているのではないか」、「失礼なことしてしまうのではないか」と心配していた。

それでも、不登校などにはならず高校を卒業し、就職した。

しかし、今年昇進してから、会議のときに自分が人々に笑われるように感じるようになり、「何かとてもばかげたことを言ったり、取り返しがつかないような失言をしてしまうのではないか」という考えが突然浮び強く不安になった。

不安になると、動悸がしてきて、唇は乾き、 汗ばんだ。

その結果、大事な会議を欠席したり、早く退出してしまうようになった。

内科での精査では心臓の異常は認めず、精神科を紹介され受診した。

抗うつ薬と抗不安薬により治療を開始してからは、不安は軽減し会議にでも参加できるようになった。

社交不安障害とは(要約)

パニック障害や全般性不安障害などとともに不安障害に含まれ、社交恐怖症とも呼ばれます。

社交不安障害は小学校高学年ごろから青年期に発症することが多く、比較的少人数の集団内で他の人々から注視される恐れが主な症状とされています。

例えば、「教室に入ること」や「グループディスカッション」などで社交場面で不安が惹起され、動機や手の震え、赤面などの症状が出現し、そういった場面を回避する様になります。

他の不安障害と同様に抗うつ薬や抗不安薬による薬物療法や行動療法で治療します。

社交不安障害の原因

抗うつ薬の一種の選択的セロトニン再取り込み阻害薬 (SSRI)の有効性が示されており、病態にセロトニンという神経伝達物質が重要な役割を果たしていると推測されています。

また、近年の脳機能画像研究により扁桃体や海馬を含む側頭葉内側部の過剰反応が症状と関連しており、症状が改善するにつれてこの過剰反応が収まっていくことが示唆されています。

社交不安障害の頻度など

生涯で社交不安障害を経験する人は100人中3〜13人程度と言われています。

発症年齢は早く、13歳 までに半分の患者さんが、23歳までに9割の患者さんが発症するとの報告があります。

うつ病やアルコール依存症などの他の精神障害の併存率が高く、50-80%の患者は、少なくとも1つの精神障害を併存していると推測されています。

隠れ社交不安障害

実際には社交不安障害なのに、診断に至っていない患者さん(いうなら、「隠れSAD」)が多いということは、以前から言われています。

米国の保険組合)に登録する患者を対象に調査した結果、社交不安障害の患者さんは 8.2% でしたが、医療記録を調べたところ、そのうちたった 0.5% しか社交不安障害と診断されていなかったという報告もあります。

その背景には、社交不安障害が青年期早期に発症して慢性に経過するため、社交不安障害の患者さんの多くが、「『自分の性格だ』と思い込んでいる」と推測されます。

社交不安障害の経過

未治療のまま経過していることが多く、数十年にわたり症状が続いており、学業や仕事のみでなく、趣味や日常の人間関係にも支障を来している患者も少なくな いです。

社交不安障害の患者さんは、そうでない人と比べて、収入が少なく、教育程度も低く、独身、別居、離婚状態の者が多いとの報告もあります。

社交不安障害の治療

治療は抗うつ薬の1種類であるSSRI を中心とした薬物療法と認知行動療法の有効性が示されています。

SSRIは十分な効果が出るまでに3か月以上かかります。また、約2割の人はほぼ症状はなくなりますが、約4割の人は一定の症状が残り、残りの3〜4割の人は最初のSSRIに反応しないともいわれています。

SSRI でもっとも頻度が高い副作用は与初期の消化器症状ですが、消化管運動亢進薬などで緩和できます。

参考文献
今日の精神疾患治療指針 第1版 医学書院
カプラン 臨床精神医学テキスト 第3版 MEDSi
精神科治療学 第30巻 増刊号 精神科治療における処方ガイドブック 星和書店

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