アルツハイマー型認知症の架空症例

78歳の女性。
結婚し、3人の子供がいる。家業のりんご農家を夫とともに営んでいた。

70歳ごろから家族から見て、物忘れが目立つようになってきたが、日常生活や畑仕事に支障がでるほどではなかった。

72歳の時に転倒し足を骨折し整形外科に入院した際に、夜興奮して眠らないことがあった。骨折が治り、そのまま退院となったが、自宅に戻ってからは徐々に落ち着いた。

76歳ごろから畑仕事にはまた出ていたが、物忘れはさらに強くなり、頻繁に財布や通帳を探すようになった。

また、火をかけたの忘れて鍋焦がしをしたり、お風呂のお湯を止めるのを忘れてよく溢れさせるようになった。

元々、はっきり物を言うタイプだったが、最近は以前よりも嫁に対して辛辣なことを言ったり、わがままを言うようになった。

先日、通帳が見つからないことに対して、嫁に向かって「あんたが盗ったんでしょ。」と向かっていき口論になった。

翌日、家族に連れられて精神科を受診した。

長谷川式簡易認知症検査で15/30点で中等度の認知障害を認め、アルツハイマー型認知症となった。

興奮などの症状と認知症の進行予防目的に、メマリーが処方されてからは以前より興奮しなくなった。

介護保険を申請し、週3回のデイサービスを利用しながら通院をづつけている。

アルツハイマー型認知症とは(要約)

いわゆる認知症には、アルツハイマー型認知症や脳血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭葉型認知症などが含まれます。

アルツハイマー型認知症は認知症の約6割を占めており、認知症の中で一番多い認知症です。

アルツハイマー型認知症の主要な症状(中核症状)は物忘れ(記憶障害)と日付や時間、場所などはわからなくなること(見当識障害)です。

また、中核症状と一緒に、他の症状を認めることもがあり、中核症状に対して周辺症状と呼ばれます。周辺症状には妄想(特に、物を盗られ妄想)や徘徊、不安、イライラ、うつ状態、夕方ごろから落ち着かなくなり夜寝ない、家族に対して暴力をふるうなどがあり、介護者が困るのはこのような周辺症状であることも多いです。

精神科では、物忘れの進行を抑えるための薬物療法だけではなく、介護者を悩ませる周辺症状に対する治療も可能です。

このような症状に対しては、家族の対応を変えたり環境を変えるなどの工夫をしながら、薬物療法を併用することで困った行動を減らすことが目標になります。

アルツハイマー型認知症の原因

原因は不明ですが、遺伝は関係があると言われており、アルツハイマー型認知症では40%の患者さんに血縁関係者にアルツハイマー型認知症の患者さんがいるという研究結果もあります。

アルツハイマー型認知症になりやすい要因

  • 女性
  • 血縁者にアルツハイマー型認知症の患者さんがいること
  • 頭部外傷や甲状腺疾患の既往があること
  • 低い教育歴
  • 不活発な精神生活・社会参加

治療

認知症の治療の第1歩は診断を確実にすることです。

血管性認知症では特に予防が重要であり、食生活の変更、運動、糖尿病や高血圧の管理などを行います。

アルツハイマー型認知症とレビー小体型認知症には認知症の進行や周辺症状を抑えることが期待できる抗認知症薬があります。

参考文献
今日の精神疾患治療指針 第1版 医学書院
カプラン 臨床精神医学テキスト 第3版 MEDSi

PAGE TOP