全般性不安障害の架空症例

28 歳の男性教師。
25歳ごろから、仕事の最中に徐々に心配がつのるようになった。

例えば、彼はいつも尊敬されていて人気のある講師だったが、生徒を把握したり、上手に物事を運んだりするのにどんどん不安になってくることに気づいた。

同様に、彼は収入は安定していたにも関わらず、「予想しない出費で、お金がなくなるのではないか」という心配が増してきた。

そのような不安がよぎるたびに、「心配しすぎだ。貯蓄もないわけじゃないんだから」と自分に言い聞かすが、また「やっぱりお金がなくなるんじゃないか」と不安になった。

そして、彼は働いたり家族と過ごしたりするときにはしばしば緊張やイライラや焦りを感じており、また翌日に迫っている挑戦的な事柄(例えば、他の講師の前でに模擬講義など)についての心配から気持ちをそらすことが非常に難しくなっていた。

特に夜は心配で眠れないでいる間、落ちつかなさが増していく感じがした。

心配と不安を主訴に精神科を受診し、全般性不安障害と診断された。

不安が強まった時には処方された抗不安薬を頓服すると、不安はだいぶ軽減した。

初診時から開始した抗うつ薬(SSRI)を続けていくと、不安が強まる頻度も徐々に減った。

一年後には抗不安薬を使う頻度は、月に2、3回にまで減った。

全般性不安障害とは(要約)

不安は、生き物に共通した感情で、自分に危機が迫った時に「戦うのか」もしくは「逃げるのか」の準備をさせるための、正常で自然な反応です。

しかし、ほとんどあらゆることに不安を抱く人は、全般性不安障害とされます。

全般性不安障害は、いくつもの出来事や活動に対する行き過ぎた不安と懸念が、少なくとも6か月間中ほとんどの日にあるものと定義されています。

その懸念は抑えることができず、筋肉に力が入り、些細なことに反応しやすくなったり、寝つきが悪くなったり、落ち気がなくなったりします。

他の不安障害と同じように、抗うつ薬に含まれるSSRIや抗不安薬による薬物療法や精神療法で治療します。

全般性不安障害の原因

全般性不安障害の不安は、理由もなしに生じて、不安の対象は捉えどころがなく、強くなったり弱くなったりする(浮動する)不安ともいわれるものです。

そして心配は、「何か悪いことが起こりそうだ」と予測し、あれこれと心配するのが特徴です。

全般性不安障害の患者さんは自分の心配が行き過ぎていることを頭でわかっていても、その心配をやめたり、防いだり、あるいは他のことに注意をそらしたりすることはできません。

全般性不安障害の頻度

日本で行われた研究ではすべての不安障害(全般生不安障害の他に、社交不安障害、パニック障害などを含めたもの)を一生のうちに経験する人は約10人に1人でした。

一生のうちに全般性不安障害を経験する人はおよそ10人に2人でした。

しかし、精神科を受診する人は少なく、不安などと一緒に出現する動悸や発汗、振えなどの身体症状を主訴に、 精神科以外の医療機関を受診する人が多いという結果でした。

経過は慢性で、症状が完全に消失することは少ないです。

障害の発症は多くは20歳前後ですが、すぐに病院を受診する人は少なく、より歳をとってから受診する傾向があります。

全般性不安障害の治療

全般性不安障害に有効な治療として薬物療法と心理・社会的療法があります。

全般生不安障害の薬物療法

薬物療法では抗うつ薬の一種類であるSSRIやベンゾジアゼピン系抗不安薬を用います。

不安障害の治療の目標は、不安そのものを消し去ることではなく、不安・心配や身体的な症状を軽減することにあります。「不安」や「心配」そのものは生きていくためには必要な感情の一つです。

薬物療法を開始するとき際には、患者さんが 「向精神薬を服用すること」そのものについて強い不安を持っていないかについて、十分に確認する必要があります。

その不安が強い場合には、症状の改善を急ぐよりも、少量で効果の弱い薬物から選択し、服薬という行為そのものについての不安を緩和させる工夫をします。

ベンゾジアゼピン系などの抗不安薬・睡眠薬を処方するにあたっては、眠気に注意することやアルコールとの併用を注意することなどが必要です。

また、薬だけではなく呼吸法や自律訓練法などを含んだリラクゼーションにより、 自分の不安の状態についての意識を高め、薬物以外の手段で不安を緩和する手段を身につけてもらうことも大切です。

自立訓練法とは

自己暗示の練習によって段階的に全身の緊張を解いていく訓練法。疲労回復やストレス解消などの効果が期待できる。

自己暗示によって体の筋肉の緊張を解きほぐし、中枢神経や脳の機能を調整して本来の健康な状態へ心身を整えることを目的とした訓練法です。1932年にドイツの精神科医シュルツによって体系化され、心療内科における代表的な治療法として広く使われています。疲労回復やストレスをやわらげるなどの効果があります。

自律訓練法の原則は、(1)できるだけ静かな場所で楽な姿勢をとる、(2)「言語公式」と呼ばれる言葉を頭の中でゆっくり反復する、(3)さりげない集中(受身的集中)を行う、などが挙げられます。リラックスした状態で目を閉じ、言語公式(安定感“気持ちが落ち着いている”、重量感“手足が重い”など)を、決められた順序に従って段階的に心の中で繰り返すことで自己催眠状態に入ります。

この訓練法は目的に応じて使用され、広く心身症、神経症、ストレス解消、精神統一などに効果があります。

自律訓練法を終了する際は、手足の屈伸など決められた終了動作を必ずする必要があります。終了動作を行わないと、脱力感や、不快感が体に残ってしまう場合があります。

厚生労働省 生活習慣病予防のための健康情報サイト e-ヘルスネット 

自立訓練法の練習に利用できる動画

YouTubeにはたくさんの自立訓練法の動画がありますが、私はこれが一番しっくりきました。
(画像のせいで怪しい印象をうけますが、内容は悪くないかと思います。)

参考文献
今日の精神疾患治療指針 第1版 医学書院
カプラン 臨床精神医学テキスト 第3版 MEDSi
精神科治療学 第30巻 増刊号 精神科治療における処方ガイドブック 星和書店

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