躁うつ病・双極性障害の症例

26歳の女性。
感情の波があり高いときはすっきりと頭が冴えて、何でもできそうな楽天的な気分になる。

アイディアが次々に浮かび、自分は天才ではないかと思う。
眠っている時間が惜しく、夜遅くまで外出しては不要なものまでたくさんの買い物をする。

早朝から友人に電話をかけまくり、相手構わずちょっかいを出し議論を挑むので周囲の人は迷惑している。

やがて低くなると、今度は気が滅入り悲観的になる。

「あの時こうしておけば」と後悔ばかりする。解決済みの小さなミスや失敗をむし返して自分を責め、「会社をクビになる」「人生はおしまいだ」などと心配する。

朝起きにくく、やる気がわかず、始めても根気が続かない。
呆然として、話しかけても答えず、じっと動かないことがある。

躁うつ病・双極性障害とは(要約)

うつ病と同じ気分障害に分類されますが、気分が下がっているとき(うつ状態)のほかに気分が極端に上がっている状態(躁状態)を認める点でうつ病とは異なります。

およそ100人に1人ほど発症し、男女差はないとされています。

躁状態では、怒りっぽくなったり(易怒)、金遣いが荒くなったり(乱費)、睡眠時間が短くなったり(睡眠時間の短縮)、上機嫌でおしゃべり(多弁)になったりします。

周りからみると明らかに普段とは異なるのに、本人は「自分はどこも悪くはない。むしろ調子がいい」と感じている場合も多いです。

躁うつ病は情動安定薬により治療します。抗うつ薬の投与で病状がより不安定になることがあるので注意が必要です。

躁うつ病・双極性障害の原因

双極性障害の原因は解明されていません。

最近では、脳由来の神経栄養因子(BDNF)や神経保護因子が不足し、正常気分を維持する神経回路(前頭前野、前部帯状皮質、海馬、扁桃核、基底核、視床などから構成される)の機能も低下し、気分の逸脱が生じる結果、躁病相やうつ病相が生じるという仮説があります。

躁うつ病・双極性障害の疫学

生涯のうちに100人に0.5 人から1.5 人が躁うつ病を発症するといわれています。

親や兄弟、子供に 双極性障害の患者さんがいた場合は、発症する割合が100人に5人から10人に上昇します。

さらに、一卵性の双子であれば、どちらも発症する確率が 40-70% と極めて高くなることから、遺伝の影響を強く示唆する所見となっています。

躁うつ病・双極性障害の経過

双極性障害の発症は、15-24 歳の間が最も多いです。

60 歳を超えて発症した場合には、何らかの器質疾患や身体疾患が背後に隠れている可能性を追求すべきです。

双極性障害には再発が多く、約90%の患者は再発します。

1年に4 回以上再発を繰り返すラピッドサイクラー(急速交代型)は、双極性障害の患者さんの10-15% に存在します。

ラピッドサイクラーに関連する要因として、女性であること、三環系抗うつ薬の使用、潜在的甲状腺機能低下症などが指摘されています。

躁うつ病・双極性障害の治療

双極性障害の躁病エピソードは、うつ病エ ピソードと異なり、急速に悪化することが多いために、しばしば治療が追いつかないことが多いです。そのため外来治療では対応できずに、入院が必要になることもしばしばあります。

躁病エピソードに対する薬物療法として、従来からあるリチウムの他に、鎮静作用の強い抗精神病薬を最初から併用することも多いです。

このような併用療法のもとで、3-4 週間経過をみて状態が比較的安定した時点で抗精神病薬の漸滅·中止を行い、その後は気分安定薬単独で維持していくという方法が一般的です。

双極性障害の抑うつエピソードは、①過小診断されがちである、②難治例が多い、③自殺のリスクが高い、④躁転のリスクがあるなどの問題を抱えた障害です。

双極性障害治療の最終目標がうつ状態と躁状態が収束することだけではなく長期的な再発予防にあることを考慮すると、うつ状態の治療薬選択においても長期的な寛解維持を視野に入れた薬物選択が必要となります。

参考文献
今日の精神疾患治療指針 第1版 医学書院
カプラン 臨床精神医学テキスト 第3版 MEDSi
日本うつ病学会治療ガイドラインⅠ.双極性障害 2017

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