強迫性障害の架空症例
27歳女性。
長年にわたって確認儀式が続いているため内科からの紹介で受診した。
例えば、車のドアをロックしていないのではと考え、繰り返し確認して本当に安心できるまで車から離れられなかった。
ドアロックを何度も確認するためにドアが壊れることも度々あり、さらにその確認に時間がかかって仕事に遅れてしまうことも多かった。
家のドアについても鍵をかけずに出てしまったのではないかと心配になり、職場へ出かける前に何度も鍵の確認をするために戻っていた。
そのため、遅刻を繰り返したため何度も仕事を失ってしまった。
強迫観念が不合理とはわかっていたが、だからといって無視することができなかったため、とても苦しんでいた。
精神科で強迫性障害と診断され、SSRIが開始された。
投与初期は効果を感じなかったが、2週間ごとに増量していくと、徐々に強迫症状は軽減した。
確認行為にかかる時間は半分ほどまで短縮し、それまでよりも日常生活上の障害も軽減された。
強迫性障害とは(要約)
強迫性障害(obsessive-compulsive disorder: OCD)は反復的な強迫観念または強迫行為は深刻な苦痛を引き起こします。
強迫観念
- 自分を傷つけてしまうのではないかと考え、ナイフやフォークを使うのが怖い
- 尖った物が怖い、窓ガラスの側を通るのが怖い
- 他人を傷つけてしまうのではないかと、 自分の赤ん坊を殺してし まうのではないか
- 公共の場面で卑猥なことをしゃべってしまうのではないか
- 電話番号、時間、車のナンバープレートなどを正確に覚えていないと気になる
強迫行為
- 汚い物に触れたと思い長時間手を洗う
- 儀式的に服を脱ぐ順番が決まっている
- 人を傷つけたか心配で、電話して確認する
- 同じところを繰り返し読む
- ある行動を決まった回数行なわないと気がすまない
強迫観念や強迫行為は時間を浪費させ、正常な日常生活や仕事、他者との関係などを大きく妨げます。
強迫性障害の患者は強迫観念の合理的でないこと認識し、また強迫観念と強迫行為を自分で「馬鹿馬鹿しい」とも思っており、それでも辞められないことに対して苦痛を感じています。
本人が苦痛を感じているのに止めることができないことが、潔癖症や心配性との違いです。
抗うつ薬や認知行動療法による治療の有効性が示されています。
強迫性障害の原因
強迫性障害の患者さんでは前頭葉、大脳基底核(特に、尾状核)、帯状束において代謝や血流などの活動性の亢進が指摘されています。
また、選択的セロトニン再取り込み阻害薬 (SSRI)による改善が認められることから、病態とセロトニン系の関連が指摘されています。
ドバミン遮断薬による強迫症状の軽減などからもドパミン系の関与も考えられています。
強迫性障害の頻度
一生のうちで強迫性障害を発症する人は 100人に2人前後といわれています。
成人では発症の男女比はなくなります。
児童・青年期発症例では男性の方が多く、女性は結婚や出産に関わる時期の発症が多いです。
強迫性障害の型
汚染は最も多くみられるのは強迫観念で、結果として手洗い、あるいは汚染されたと考えられる対象に対する回避(触らない、距離を取る、避けるなど)が現れます。
次に多いのは、病的な疑念です。疑念という強迫観念から、確認するという強迫行為がそれに伴います。
例えば、ストーブを消し忘れる、鍵を閉め忘れるなどといった強迫観念から、ストーブを確認するために何度も家に戻るといった強迫行為(確認強迫)に至ります。
強迫性障害の経過
重症になればトイレや入浴など日常生活全般に時間を要し、一日中強迫症状にさいなまれることもまれではない日常生活への障害が強い疾患です。
従来は慢性の経過をたどる難治性の障害とされてきましたが、近年では認知行動療法とSSRI による治療が普及し、症状の改善が認められるようになってきました。
しかしながら、これらの治療を行っても症状の改善が認められず、苦しんでいる患者さんもおられます。
強迫性障害の治療
SSRIやクロミプラミン、非定型抗精神病薬を中心とした薬物療法の有効性が示されています。
SSRI が第一選択薬ですが、約半分の患者はSSRIに十分な反応を示さないといわれています。また、抗強迫効果の出現にはうつ病に用いるよりも高用量、長期間の服用が必要であることが多いです。
参考文献
今日の精神疾患治療指針 第1版 医学書院
カプラン 臨床精神医学テキスト 第3版 MEDSi