マタニティーブルーと産後うつの違い
こんにちは。青森県弘前市の精神科医の工藤です。
まもなく出産を控えている妊婦さんから「マタニティーブルーと産後うつはなにが違うの?」と聞かれました。
たしかに、どちらも「産後に見られる精神状態の変化」なのは知っているけど、どこがどう違うのかわからない方も多いかもしれませんね。
ざっくりいうと、マタニティーブルーは産後によくみられる正常範囲の変化で、産後うつ病はうつ病の中の一つの型とされ病気に分類されます。
この記事を読むことでマタニティーブルーと産後うつ病の違いを知り、不要に心配したり、逆に治療に遅れたりしないようになりましょう。
マタニティーブルーと産後うつ病の比較
特徴 | マタニティブルー | 産後うつ病 |
---|---|---|
頻度 | 産後女性100人に 30〜70人 | 産後女性100人に 10〜15人 |
発症時期 | 産後3〜5日 | 産後3〜6ヶ月 |
持続 | 数日から数週で回復 | 治療されなければ数ヶ月〜数年 |
関連するストレス要因 | なし | あり:精神的支えの欠如 |
社会文化的影響 | なし | 強い関連あり |
気分障害の既往 | 関連なし | 強い関連あり |
気分障害の家族歴 | 関連なし | ある程度関連あり |
涙もろさ | あり | あり |
気分不安定 | あり | しばしばり認める |
楽しい気分の喪失 | なし | 多い |
睡眠障害 | 時々 | ほとんど常に |
自殺念慮 | なし | 時々 |
子供を傷つける考え | 稀 | しばしば |
罪悪感 | ない、または軽度 | しばしば存在する |
この表をみて、マタニティーブルーよりも産後うつ病の方が症状が重い感じがしませんか。まずは、そのイメージを持っていただくことが大事です。
また、マタニティーブルーは産後数日で発症し一過性で経過するのに対して、産後うつ病は少し時間を置いてから発症し(そもそも、うつ病の診断基準的に「2週間以上続くうつ状態」とある)、発症後もマタニティーブルーよりも経過が長くなります。
マタニティーブルーとは
マタニティーブルーはベビーブルーズとも呼ばれる、多くの産後の女性が経験する情動障害(悲しい、イライラするなど)です。
マタニティーブルーは女性ホルモンの急激な変化や出産のストレス、母になることで増える責任の自覚などが原因とされ、一過性に悲嘆、不快気分、客観的な混乱、涙もろさなどを認めます。
マタニティーブルーに対しては、新しく母親になることへの支援と教育以外には専門的な治療はありませんが、数日から数週で自然に回復します。
逆に、もしも、症状が2週間以上続くのであれば、産後うつ病の可能性があるので産婦人科や精神科の受診を検討してください。(まず、産科の先生に相談してみるのが現実的かもしれません。その上で、必要があれば、産科の先生から精神科を紹介してもらいましょう。)
産後うつ病とは
産後うつ病は精神疾患の診断・統計マニュアル第5版(DSM-5)では、うつ病の中の一つの型とされていて、抑うつ気分、過度の不安、不眠を特徴とします。
通常、産後12週間以内に発症し、治療されなければ数ヶ月から数年間、抑うつ状態が続きます。
また、将来的にうつ病を繰り返すリスクも高くなるとも言われています。
妊産褥婦の自殺
このように、周産期は多彩な精神疾患の初発や再発例が多く出現します。その中でも、特に妊産婦の自殺の問題となっています。
イギリスの母体死因に関する調査では、自殺が母体死因の主要要因のトップになったと報告されました。
また、最近の社会人口統計学的調査(Perinatal Mortality Surveillance 2014-Full Report) でも、産後6週間から1年未満の死亡の1/4はメンタルヘルス関連による死亡で、7人中1人は自殺であると報告されました。オーストラリアの調査でも妊婦の自殺率が高いと報告されています。
産後うつ病が家族に与える影響
産後うつ病の母親は、児への育児能力が低下したり情緒的働きかけが減少したりするため、児の身体的および情緒的な発達が十分に促進されないことがあります。
例えば、母親がうつ病の児では、下痢のリスクが高くなったり、乳幼児の発育が遅れるという報告があります。
また、初期の母子関係、児の社会的・情緒的および行動上の発達に対してネガティブな影響を与えると言われています。
まとめ
マタニティーブルーと産後うつ病は、頻度や症状の重症度、経過において違いましたね。マタニティーブルーは正常範囲の変化で、産後うつ病は病気でした。
産後数日で情緒は不安定になったなら、マタニティーブルーが疑われるため、それほど心配せずに経過を見てください。ただし、2週間以上の症状が続く場合は産後うつ病の可能性もありますので、産婦人科の先生(必要なら精神科も考慮)に相談しましょう。
産後数週から数ヶ月経ってから、徐々に気分が落ちてきた、やる気が出なくなってきた、食欲も無くなった、などの症状が出てきた場合は産後うつ病の可能性があるので要注意です。
本人が辛いのはもちろんですが、赤ちゃんの発育への影響も報告されているので、産後うつ病を疑った場合はきちんと産婦人科もしくは精神科に相談しましょう。(まずは、産婦人科の担当の先生でいいと思います。)
最後に、もう一度、二つを比べてみましょう。()
特徴 | マタニティブルー | 産後うつ病 |
---|---|---|
頻度 | 産後女性100人に 30〜70人 | 産後女性100人に 10〜15人 |
発症時期 | 産後3〜5日 | 産後3〜6ヶ月 |
持続 | 数日から数週で回復 | 治療されなければ数ヶ月〜数年 |
関連するストレス要因 | なし | あり:精神的支えの欠如 |
社会文化的影響 | なし | 強い関連あり |
気分障害の既往 | 関連なし | 強い関連あり |
気分障害の家族歴 | 関連なし | ある程度関連あり |
涙もろさ | あり | あり |
気分不安定 | あり | しばしばり認める |
楽しい気分の喪失 | なし | 多い |
睡眠障害 | 時々 | ほとんど常に |
自殺念慮 | なし | 時々 |
子供を傷つける考え | 稀 | しばしば |
罪悪感 | ない、または軽度 | しばしば存在する |
参考文献など
カプラン 臨床精神医学テキスト 日本語版第3版 MEDSi
向精神薬と妊娠・授乳 改訂第2版 南山堂
日本産婦人科医会 女性の健康Q&A