適切な睡眠とは
皆さん睡眠は十分にとれてますか。時々、診察時に患者さんから「5時間ぐらいしか眠れないんですが大丈夫でしょうか」などと睡眠時間の長さについて質問されることがあります。
日本の成人の睡眠時間は 6 時間以上 8 時間未満の人がおよそ 6 割と言われています。また、総務省の統計局が5年ごとに行っている社会生活基本調査(全国の 10歳以上の世帯員約 20 万人を対象にした調査票による調査)のH28年度の調査報告でも、全国の平均睡眠時間(土日を含む週全体の平均)は7時間40分と報告されています。
ちなみに都道府県別では、青森県は7時間59分で秋田県の8時間2分に次いで2番目に長く、最短は埼玉県の7時間31分でした。
ですから、先ほどの患者さんの5時間の睡眠は全国の平均睡眠時間に比べて確かに大分短いようです。では、睡眠薬を使ってでも睡眠時間を延ばす必要があるのでしょうか。
治療する必要があるのかを判断するために、私なら患者さんに「日中に強い眠気を感じますか?」という質問をします。
答えが”NO”であるなら、睡眠障害としての治療はおそらくいらないでしょう。
なぜなら、睡眠の良し悪しは睡眠の長さだけではなく、睡眠の質(深さ)も重要で、質が良い睡眠は短時間でも熟眠感(しっかり眠れたという感覚)を得ることができます。また、その人にとっての必要な睡眠時間はそれぞれ違い、中にはショートスリーパーと呼ばれるごく短時間の睡眠で十分な体質の方もいます。また、年齢や日中の活動量の違いで必要な睡眠時間は変わってくるのです。
ですから、患者さんが日中に強い眠気を感じておらず、もしくは眠気を感じていても短時間の昼寝で補えているのであれば、治療する必要はないでしょう。なお、30分程度の昼寝は夜の睡眠に影響はないとされ、むしろ眠気を感じたまま仕事をするよりも作業効率が向上すると言われています。
スペインなどのラテン文化圏にはシエスタという昼寝を含む長めの昼休憩をとる文化がありますが、最近はシエスタを推奨している企業もあるそうです。ただし、夕方以降の昼寝は短時間でも夜の睡眠に悪影響(入眠困難や質の低下など)を及ぼしますので、しないようにしましょう。
では、「日中に強い眠気を感じますか?」という質問に対する患者さんの答えが” YES “(日中に強い眠気がある)だったらどうしましょうか。
注意しないといけない不眠もある
昼寝で改善せず日中の活動に支障を来すほどの眠気を認める場合は、十分な睡眠がとれていないので精神疾患の鑑別が必要です。うつ病や躁うつ病、統合失調症、適応障害などの多くの精神科疾患では症状として不眠が認められます。
また、睡眠の障害自体が主症状である睡眠覚醒障害群もあります。ここには睡眠障害や過眠障害、ナルコレプシー、睡眠時無呼吸症候群、レム睡眠行動異常障害、むずむず脚症候群などが含まれ、問診や診察で鑑別する必要があります。そして、これらの疾患が不眠の原因であった場合は、各疾患ごとに治療を行う必要があります。
今回は不眠以外の症状は伴わない、純粋な不眠症(DSM-5 307.42, ICD-10 F51 非器質性不眠症)だったとして話を進めましょう。
不眠症の治療は生活習慣の見直しから
不眠症の治療と聞くと、まず睡眠薬を使うことを想像する方が多いかもしれません。確かに睡眠薬で治療することもありますが、睡眠薬には依存や耐性が問題になったりします。(最近は身体的依存やふらつきなどの副作用が少ない薬もあります)
しかし、睡眠薬を使わずに不眠が改善できればそれにこしたことはないですよね。そのため、生活習慣に眠れなくなる原因がないか患者さんに確認し、もし該当する場合は生活習慣から改善するべきでしょう。
具体的には以下のようなことを質問します。
- 日中に適度な運動をしているか
- 昼寝をしすぎていないか
- 夕方以降に昼寝をしていないか
- 寝る前に激しい運動や入浴、喫煙をしていないか
- 寝床についてからもテレビを見たりスマホを操作していないか
- 夕方以降にコーヒーや緑茶などでカフェインを摂取していないか
- 眠くなってから布団に入っているか
補足すると、日中の適度な運動は睡眠を改善し、逆に運動不足だったり臥床がちだったり日中の活動性が低いと睡眠の質は下がります。
昼寝については前述したように、夕方前までに30分を目安にしましょう。
日中の運動は推奨しますが、夜寝る直前の筋トレなどの激しい運動や熱いお湯での入浴は自律神経が興奮してしまうのでやめましょう。煙草に含まれるニコチンも興奮作用があるので寝る前は控えましょう。また、部屋で喫煙されている方で煙が充満した状態の部屋では睡眠の質は下がりますので、きちんと換気をしてから寝ましょう。
テレビやスマホの明かりで覚醒してしまいますので、寝る前は控えましょう。
カフェインは摂取後は3~4時間は脳に作用し覚醒させますので、夕方以降は控えましょう。
7.「眠くなってから布団に入っているか」についてですが、患者さんの中には規則正しい生活を意識しすぎて、眠くなってないのに布団に入って「寝付けない」と訴える患者さんが時々いらっしゃいます。しかし時間を決めて布団に入るよりも眠くなってから布団に入ることのほうが推奨されています。
また、以前は眠れなくても布団で過ごして体を休めるのが良いと言われていましたが、最近は一回布団から出て活動し、また眠くなった時点で布団に戻る方がいいとされています。
最後に
今回のブログタイトルが「眠れない夜に」としましたが、実はこのブログは夜3時に目が覚めてしまい、そのまま書き出した記事です。ついさっき、朝の7時にセットしたアラームが鳴ったところですので、これから身支度して出勤です。昨日は21時過ぎから寝たので睡眠時間はそれなりので心配はいりません。
「途中で起きて再入眠できないときは起きてしまおう」というのをまさに実践したわけですが、実はパソコンやスマホはかえって頭が冴えてしまうので控えた方がいいです。寝れない夜に一旦布団からでたときは、さ湯を飲んで体を温め、読書やラジオなどでリラックスして過ごした方がよいとされています。
今回の記事は厚生労働省作成の「健康づくりのための睡眠指針 2014」を参考にしました。短時間で読めますし、気になった方はご参照ください。