【精神科医が解説】精神科と心療内科の違い

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こんにちは。青森県弘前市の精神科医の工藤です。

患者さんから「精神科と心療内科は違うんですか?」とよく質問されるので、今回は2つの科の違いについてに説明します。

ただ、医療圏の違いや医師個人のスキルの違いによって、当てはまらないこともあると思うので、あくまでも一つの考えとして参考にしていただければと思います。

 

先に結論をまとめたものを出しておきます。

  1. 心療内科と精神科は異なる科である。
  2. 心療内科医の本質は内科医である。
  3. 心療内科の主な対象疾患は心身症であり、神経症やうつ病などは本来は心療内科の対象疾患ではない。
  4. とはいえ、実際の臨床では心療内科医も神経症や軽症のうつ病、ストレス関連疾患なども治療している。
  5. 「心療内科」を標榜しているクリニックはたくさんあるが、ほとんどは心療内科の専門医ではない。
  6. 心療内科の専門医は全国に300人程度しかいない。
  7. クリニックの標榜に掲げられていることが専門性を保証しているわけではない。

これから各項目について、解説していきますね。

投稿の最後には、精神科と心療内科のいずれの科を受診するか」で迷った時のフローチャートも作成したので受診先で迷っている方は参考にしてください。(青字をクリックでジャンプ)

精神科と心療内科は違う科か?

医療関係者でも精神科と心療内科の違いをきちんと説明できる人は多くはないので、普段は医療とはあまり縁のない人は違いがわからない人の方が多いかもしれませんね。

でも、仮に精神科医もしくは心療内科医に「精神科と心療内科は同じ科ですか?」と質問したら、いずれの医者も迷うことなく「違う科だ」と答えると思います。

私たち医師にとってはそれぐらい違う科なんです。

なかには、「一緒にされたら困る(迷惑)!」と言い切ってしまう先生もいるかもしれません。

ただ、「精神科と心療内科は違う科だけど、診療の対象になる疾患が重なる部分はあるよ」と付け加えてくれる先生も多いと思います。

私自身の各科の関係のイメージは下の図のようになります。

精神科・心療内科・内科の違い
一般内科と心療内科と精神科の治療領域のイメージ
(赤:内科全般 オレンジ:心療内科 青:精神科)

各科の重なり具合については「もっと精神科も診てるわ!」という心療内科の先生や、「もっと内科も診てるぜ!!」という精神科の先生もいらっしゃるかもしれませんが、「内科領域と精神科領域の双方に重なる様に心療内科がある」という大まかな並びについては、概ね同意していただけると思われます。

また、「心療内科は精神科よりは内科寄りに位置する」ということについては、あまり異論は出ないと思います。

なぜなら、心療内科は歴史的にも内科から派生してきた(日本では、1960年に第 1 回 日本精神身体医学会が開催 された。 その翌年には、九大医学部に精神身体医学研究施設(2 年後に心身医学講座、心療内科に発展)が創設されました。)からです。

また、日本心療内科学会の心療内科専門医の申請資格の条件のなかには、「申請時において日本内科学会認定内科医(あるいは総合内科専門医)の資格を有すること」という条件があります。

内科認定医は日本内科学会認定医制度において、「一定レベル以上の実力を持ち、信頼される内科医を認定内科医と認定する」とされています。

つまり、心療内科のルーツはあくまでも内科であって、精神科ではありません。

心療内科と精神科の対象疾患

では、心療内科で診る疾患と精神科で診る疾患はどんなものがあるのでしょうか。

心療内科で診る疾患

心療内科の主な対象疾患は「心身症」です。心身症については日本心身医学会が下記の様に定義していいます。

心身症とは身体疾患の中で、その発症や経過に心理社会的因子が密接に関与し、 器質的ないし機能的障害が認められる病態をいう。ただし神経症やうつ病など、 他の精神障害に伴う身体症状は除外する。

日本心身医学会の心身症の定義(1991)

つまり、頭痛や高血圧、糖尿病、胃潰瘍・十二指腸潰瘍、過敏性腸症候群、気管支喘息、 アトピー性皮膚炎などの内科疾患で、その背景に心理社会的因子が密接に関与している場合が、心療内科の診療対象の「ど真ん中」になります。

「心理社会的な要因」というのは、例えば性格(神経質等)や行動パターン(いつも他者に合わせてしまう等)などの個人内の要因、あるいは社会的なストレス(配偶者の死、借金、仕事の忙しさ等)などのことをいいます。

そして、意外に感じた人も多いかもしれませんが、本来は神経症やうつ病は心療内科の対象疾患ではないんです。神経症やうつ病は精神疾患に含まれ、精神疾患のために身体症状が出現することもありますが、元となる精神疾患の治療が必要なるのでこの場合は精神科での治療が優先されます。

とはいえ、実際の臨床では、心療内科を含む内科でも神経症やうつ病の患者を診ています。理由の一つは、疾患がそのものが 内科 / 精神科 とクリアに分かれていないからです。どうしても、両科にまたがるグレーな部分ができます。

例えば、心窩部痛を主訴に心療内科医の元を受診した患者が胃潰瘍だけでなく、うつ病も併存していた場合、心療内科の先生は胃潰瘍の治療と一緒にうつ病の治療もするでしょう。ただし、患者さんに精神病症状(幻覚・妄想など)や希死念慮(死にたい気持ち)を認めれば、心療内科の範疇ではないので精神科を紹介すると思います。

他の理由としては、心療内科専門医はまだまだ少ない(後述)ことに加え、全国的には心療内科に限らず医者自体が不足していることが考えられます。特に地方都市のほとんどの医療圏ではそこまで専門に絞って診療するのは難しいのが現状です。

ですので、心療内科と精神科で対象疾患が重複するところは、心身症や軽症のうつ病の他には摂食障害やストレス関連障害(適応障害など)などが考えられます。

精神科で診る疾患

先ほど少しお話ししましたが、希死念慮(死にたい気持ち)が強かったり、興奮が強い時、幻覚や妄想があるときなどは精神科での治療が優先されます。

病名としては、統合失調症や躁うつ病、中等症以上のうつ病など、いわゆる精神病圏が精神科の「ど真ん中」になります。(あくまでも他科と精神科を比べた場合の「ど真ん中」という意味で、それぞれの精神科医の「ど真ん中」というわけではありません。)

心療内科専門医はほとんどいない

ここまで読んでいただくと、心療内科と精神科の違いについてはだいぶ整理がついてきたのではないでしょうか。

それでは心療内科医は全国にどれぐらいのいるのでしょうか?

何を持って「心療内科医」とするかですが、「心療内科専門医であるか」ということが一つの目安にはなると思います。

心療内科領域には日本心身医学会と日本心療内科学会(日本心身医学会が日本心療内科学会の親学会)に2つの学科があって、それぞれの学会の専門医の名簿はウェブサイトで閲覧することができます。

ウェブサイトによると、日本心身医学会認定の心身医療専門医は全国に316人(2020年8月時点)と少ないですが、日本心療内科学会認定の心療内科専門医は全国に113人(2020年10月時点)とさらに少ないです。

また、心身医学の講座ないしは診療科が開設されているのは、九州大学、東京大学、東邦大学、東北大学、関西医科大学、鹿児島大学、 東京医科歯科大学(歯学部)、日本大学、近畿大学だけであり全国的には心身医学系の講座がある大学の方がまだ少ないです。

ちなみに、日本精神神経学会認定専門医は青森県内だけでも72人 、全国では11,000人(2020年10月時点)おり、全国の医学部には例外なく精神科講座があります。そして、日本内科学会認定専門医は青森県内に522人、全国に3,7000人(2021年1月時点)です。

つまり、心療内科の専門医は圧倒的に少ないです。

よくみる「心療内科」の標榜について

ここで「心療内科の専門医は圧倒的に少ないって言うけど、よく病院の標榜で『心療内科』をみるけどな」と疑問に思った方もいるかもしれませんね。

確かに「心療内科」と標榜しているクリニックはたくさんありますが、実はほとんどの場合は心療内科専門医ではなく内科もしくは精神科の医者が心療内科を標榜しています。(全国に専門医は300人程度しかいないのだから!

クリニックや病院の診療科目の標榜については、厚生労働省がルールを決めていて、掲げる標榜については自己申告で基本的に自由に標榜することができます。つまり、例えば、眼科や皮膚科の診療経験はほとんどない私でも、「眼科」「皮膚科」と標榜することも可能です。

標榜科目が多い方がクリニックへの入り口が広がり集患が期待できるので、多めに掲げたがるクリニックがあっても不思議ではないですね。仮にそう言う病院があってたとしてもルール違反ではありません。

ですから、『クリニックの標榜はあくまでも「診ますよ」という「案内」であり、「どのレベルで診れるか」という「専門性」を保証しているわけではない』ことは皆さんも知っていた方がいいかもしれません。

ちなみに、当院では「精神科」と「心療内科」を標榜していますが、ご多分に漏れず、私も心療内科専門医ではありません。ですので、当院では心身症を精神科寄りの立場から診療しますが、もしも身体的に重度であれば他院の内科を紹介することになります。

精神科か心療内科のどちらを受診するか迷ったら

これまでの話を踏まえて、心療内科と精神科をどのようにして選べば良いのでしょうか。

例えば、気分の落ち込みや不眠などのメンタル面の不調があり、心窩部痛、腹痛、頭痛、嘔気など身体症状が強ければ、心療内科専門医もしくは心療内科を標榜している内科系クリニックを受診した方がいいでしょう。

一方で、死にたい気持ちが強い場合や幻覚や妄想がある場合、身体症状がそれほど強くなく不安や抑うつ気分など精神症状が主体のときは精神科を受診した方がいいでしょう。

フローチャートにすると、このようになります。

内科・心療内科・精神科チャート
精神科と心療内科のどちらを受診するかのフローチャート

まとめ

だいぶ長くなってしまいましたが、以上をまとめるとこのようになります。

  1. 心療内科と精神科は異なる科である。
  2. 心療内科医の本質は内科医である。
  3. 心療内科の主な対象疾患は心身症であり、神経症やうつ病などは本来は心療内科の対象疾患ではない。
  4. とはいえ、実際の臨床では心療内科医も神経症や軽症のうつ病、ストレス関連疾患なども治療している。
  5. 「心療内科」を標榜しているクリニックはたくさんあるが、ほとんどは心療内科の専門医ではない。
  6. 心療内科の専門医は全国に300人程度しかいない。
  7. クリニックの標榜に掲げられていることが専門性を保証しているわけではない。

念のために誤解が生じないように付け加えておきたいことは、「専門医であることはその分野について一定以上の専門性があることを保証しますが、専門医ではないからといってその分野に精通していないとは言い切れない」ということです。

特に、日本心療内科学会は1996年発足であり歴史はさほど長くはありません。内科の先生の中には発足前から日常的に心療内科領域の診療していたけれど、心療内科専門医まではあえてはとらなかったという先生がいても不思議ではありません。

最後に

現在通院先を探していた方は、今回の記事を参考にしていただき、より病状に合った病院やクリニックを選んでもらえたら幸いです。

【アドバイザー】
関西医科大学 心療内科 医師 秋山 泰士 先生

【参考文献など】
心身医  1985年  第25 巻 抄録号 わが国における心身医学の歴史と展望 池見 酉次郎
日本心身医学会ウェブサイト
日本心療内科学会ウェブサイト
九州大学病院 心療内科ウェブサイト
東京大学医学部附属病院 心療内科ウェブサイト

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